音楽療法とは、発達障害や精神障害、緩和ケア、病気や事故後のリハビリテーションなど、多くの分野で導入されている、音楽を利用したリハビリテーションの1つです。
音楽療法の先進国であるアメリカでは、音楽療法は盛んにおこなわれています。近年日本でも注目されていますが、まだ認知度が低いことが現状です。
音楽療法とはどんなもので、誰を対象にしているのでしょうか。今回は、音楽療法に関する基本的な知識を、音楽療法の定義や歴史とともにご紹介します。
音楽療法について詳しく見ていきましょう。
日本音楽療法学会(JMTA)による定義では、音楽療法とは、
「音楽の持つ生理的、心理的、社会的働きを用いて、心身の障害の回復、機能の維持改善、生活の質の向上、行動の変容などに向けて、音楽を意図的、計画的に使用すること」
としています。
(参考元: 日本音楽療法学会HP https://www.jmta.jp/ )
古代医療では音楽療法の基盤が定着していました。その後一度は医学と分離して考えられる時代がありましたが、第二次世界大戦後のアメリカの退役軍人のケアの中で、再び音楽の癒しの力が再評価されるようになり、アメリカをはじめとする諸外国の音楽療法は大きく発展しました。
音楽療法の先進国であるアメリカでは、1940年代に大学で音楽療法のコースが開設され、現在では音楽療法士のカリキュラムや資格認定制度が確立され、音楽療法士は独立した専門職として活躍しています。
日本での専門家による音楽療法の研究の歴史はおよそ50年になります。
障害児教育や心理療法、認知症患者への治療、心身医学領域などさまざまな観点から研究が進み、1986年に日野原重明氏により日本で最初の音楽療法研究会であるバイオミュージック研究会が設立されました。
1995年には同じく音楽療法研究会の臨床音楽療法協会と合同で、全日本音楽療法連盟が設立されました。
1996年には音楽療法士の認定が開始され、ガイドラインを基本にした音楽療法士養成コースが設置され、2001年に日本音楽療法協会が発足しました。音楽療法士は現在民間の資格ですが、国家資格認定が目指されています。
(参考元: 日本音楽療法学会HP https://www.jmta.jp/ )
近年になり、日本でも、クライアントにはQOL(生活の質)の向上が重要であると言われるようになり、そのためには音楽の持つ力が有効であることが注目され、音楽療法への関心は高まってきています。
また、音楽療法は医療分野だけでなく教育分野にも応用されつつあります。
音楽療法には様々な種類があり、対象者の状況に応じて適切な方法を選択して行われます。
対象者自身が歌ったり楽器を鳴らしたりダンスをしたりして、音楽に直接参加するものです。対象者の自発性や表現を引き出したいときなどに利用します。
音楽療法士が奏でる音楽やCDを聴く形で参加するものです。自身で音楽が奏でられない方や、自ら表現するよりも音楽を通して穏やかにリラックスする必要がある方などに適用されます。
音楽療法士と対象者が個別で行うものです。そのため、対象者の趣味や嗜好、ペースに合わせた対応が可能です。
集団でのコミュニケーションを促進したいときや、集団でのにぎやかな活動がよい刺激となりうる対象者に行われます。
子どもから高齢者まで、ニーズを抱えたすべての人に音楽療法は有効です。ここでは、特に音楽療法がよく利用される対象を紹介します。
音楽療法は発達障害児の療育に有効であると言われています。音楽は、音を鳴らしたり聞いたり、ダンスで体を動かしたりと、様々な体の感覚を用いるため、感覚統合に働きかけることができます。
例えば、衝動性が抑えられない子どもが、音楽を用いることでそのストレスを発散させたり、一方で音楽のリズムを利用してその衝動性を一定に抑える訓練をしたりすることができます。
また、音楽療法士とのやりとりや、集団活動での他の子どもとのコミュニケーションの中で、社会性や協調性の向上を図ることもできます。
集団活動が苦手な子どもでも、音楽という非言語的コミュニケーションによって集団に入るきっかけになります。周りと同じタイミングで音を鳴らしたり、自分の番まで待つことが出来るようになったりすることで、学校などの生活場面で周囲と合わせる能力を身に着けることが出来ます。
これらの活動は、一部の病院などや放課後等デイサービスで行われることが多くみられています。
ホスピスや緩和ケア病棟でも、音楽療法は用いられます。対象者は、身体の痛みだけでなく、言葉では表しきれないような感情の痛みも抱えています。
音楽は、非言語的コミュニケーションを可能にするため、言葉で語らずとも対象者の感情表現を促す効果があります。
また、音楽のリズムやメロディなどが、痛みや気分の不快などの辛い感覚を心地よい感覚に置き換えてくれることも期待できます。
緩和ケアの時期にある対象者の家族もまた、心の痛みを抱えています。懐かしい音楽や対象者の好きな音楽を一緒に聞いたり奏でたりすることで、思い出を語り合ったり楽しい時間を共有したりすることができ、悲嘆を和らげる効果も期待できます。
音楽療法は、精神障害者への非薬物療法として1950年代ごろから用いられており、コミュニケーションや自己表現を促したり、気分を安定させたりする効果が期待されます。
自分の世界に閉じこもってしまっている方に対して、集団での音楽活動によって他者とのコミュニケーションを行い、自分の外の世界との繋げることができます。
また、自信を喪失している方や無力感が強い方が、音楽によって活動性が高められ自信を回復される方もいます。統合失調症などで攻撃性が強くなっている方が、歌うことなどでストレスを発散して、その攻撃性が軽減されることもあります。
他にも、好きな音楽を用いることで気分が安定し、生活リズムの改善を認めることもあります。幻聴や幻覚に悩む方が、カラオケなどを楽しんでいる間はそれらを忘れることができる、ということも実際にみられていることです。
認知症の症状には、記憶障害、不安感やうつ状態、攻撃性、妄想や幻覚などがみられます。
認知症の音楽療法では、昔懐かしい歌を歌ったり演奏したりすることで、昔の楽しい記憶を蘇らせ、気持ちを穏やかにする効果が期待できます。
また、言語的コミュニケーションが困難になった方も、音楽を用いることで歌や体の動きを引き出すことが出来ることもあります。
認知症の方は、出来なくなったことが増えて自信を喪失し、うつ状態となることが多くありますが、音楽療法では覚えている昔の歌や、難しく考えなくてもできる演奏やダンスを利用することで、自信を取り戻し、活動性を高めることもできます。
介護予防教室でも音楽療法は行われることがあります。懐かしい歌を歌ったり演奏したりすることは、記憶をつかさどる脳の部位を活性化させるため、脳トレとしても有効であるため、認知症予防にも効果的です。
また、音楽を利用した体操やダンスなども行われていて、転倒予防や運動に役立っています。
病気や事故による入院生活では、無為になりがちで活動性が低下し、結果として運動機能の低下や意欲の低下につながることが多く見られます。
そこで音楽療法を利用することで、気分の改善や意欲の向上を図り、前向きにリハビリテーションに取り組むきっかけ作りにすることが出来ます。
また、パーキンソン病の場合には音楽を用いることで体を動かしやすいことが分かっており、音楽療法によるリハビリテーションは有効と考えられています。
音楽療法では、音楽の持つ様々な力を、対象者の状況や希望に合わせて適切に使うことが求められます。まだ科学的に立証されていないものも多いですが、現在も多くの研究が行われています。
心地よい音楽は苛立っていた気分を落ち着けて、楽しい音楽は落ち込んだ気分を元気にしてくれます。好きな音楽を奏でたり聞いたりすることで、気分をコントロールすることが難しい方の怒りや攻撃性を緩和することが期待できますし、不安感が強い方の心の安定を図ることができます。
言葉がうまく話せない人や自分の感情を表現することが難しい人が、音楽を奏でることで自己表現を引き出す効果があります。楽器を奏でたり歌ったりすることが、自分の思いや考えの表出になるのです。そしてそれが自分の思いを言語化するきっかけになることもあります。
みんなで音楽を奏でることは、言語を介さずに行えるコミュニケーションです。集団が苦手な子が場を共有するきっかけになりますし、発語が難しくても一緒に取り組むことができる活動ですので、孤立を防いだり、集団活動への参加につながったりするのです。
音楽が流れると体を動かしやすくなります。ダンスをしたり、音楽に合わせて歩いたりすることは、リハビリテーションや介護予防にもつながります。
懐かしい歌は記憶を蘇らせ、落ち着いた気持ちにさせてくれたり、覚えていることに喜びを感じさせてくれたりします。
音楽療法は、第二次世界大戦後から、音楽療法はアメリカで発展してきましたが、日本でも音楽療法は注目されており、50年の研究の歴史があります。現在は民間資格ですが、国家資格認定を目指した活動が行われています。
音楽療法には能動的・受動的・個人・集団の4種類の音楽療法があり、対象者に応じて使い分けられます。
また、その対象は、発達障害・精神障害・緩和ケア・認知症・介護予防・病気や事故後のリハビリテーションなどと幅広くあります。
音楽には様々な力がありますが、まだ科学的に立証されていないことも多いため、今後も研究・発展が期待される分野です。
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