音楽によるリラクゼーション効果は誰もが感覚的に理解できることですが、それだけではなく、1つのセラピーとして障害者や高齢者の訓練に介入しています。
これは、単純に言葉だけを用いた言語訓練や、単調な身体運動だけで訓練するよりも、音楽に合わせて訓練を実施した方がより効果的なことがあるからです。
この記事では音楽の持つ力とその効果についてご紹介します。
普段から何気なく聴いている音楽ですが、そこにはたくさんの効果があります。皆さんも感じられたことがあるのではないでしょうか。
音楽を聴くことで無意識に体が動き出すことがあります。
認知症患者や発達障害により円滑にコミュニケーションがとれない場合でも、音楽を流すことで自然と体が動き、運動が可能なことがあります。
また、楽器を鳴らしながら運動することで容易にリズムを取れるようになり、歩行動作などを円滑に実施できます。
音楽は心理面に様々な影響を与えます。
まずは、リラクゼーション効果です。心地よい音楽を流すことにより、肯定的な感情で訓練や作業に取り組めます。否定的な感情で訓練を実施するとその効果も低下します。よって、音楽によりリラックスしてもらうことは重要です。
また、施設や病院の生活において、自由が利かないことでストレスを感じることはしばしばあります。
こういった場合にも音楽を聴くことにより気分転換することも重要です。
楽しい気分の時には軽快な曲を聴いて良い状態を維持し、イライラする時には迫力のある曲を選んでストレスを発散させるなど気分に合わせると良いです。
次に、懐かしい曲を聴くことで昔のことを思い出す回想法にも役立ちます。回想法は認知症の訓練で、過去に経験したことを再現したり、話をすることにより認知症の進行を遅らせる方法です。対象者が知っている曲を選曲し、その曲を歌ったり演奏したりします。
その曲の歌手や時代背景などについて語り合うのも効果的です。
認知症患者の場合、最近聴いた曲だと忘れている場合があります。よって、数十年前に聴いた曲を選曲すると良いです。
そして、自己肯定感を与えることも注目すべき点です。認知症や失語症患者などは普段円滑にコミュニケーションをとることが困難です。そのような方達も、歌であれば歌えることがよくあります。
歌により病前と同じことができることを知り、自己肯定感を与えることも音楽療法の重要な効果です。理学療法や言語療法でできるようになることも大事ですが、音楽を用いて訓練することでセッションに楽しみが生まれます。
音楽により共通認識が生まれることがあります。
例えば、昼食時、訓練開始時などに曲を流すことによって、今が何をする時間か認識することができます。
音楽にはマスキング効果があります。他者と生活の場を共有すると、他者の出す音がストレスになることがあります。
しかし、心地よい音楽を流すことによって他の雑音が気にならなくなり、場を和ませる効果があります。
リハビリの中には、音楽の効果を取り入れている音楽療法という方法があります。
日本音楽療法学会によると音楽療法とは『音楽のもつ生理的、心理的、社会的働きを用いて、心身の障害の回復、機能の維持改善、生活の質の向上、行動の変容などに向けて、音楽を意図的、計画的に使用すること』とあります。
(参考元: 日本音楽療法学会HP https://www.jmta.jp/)
音楽療法の最大のメリットは、意思疎通が円滑でない人に対しても有効であることです。
例えば、認知症により記憶力や判断力が低下している場合、会話が成立しないことがあります。
しかし、音楽を聴くと自然と歌詞を口ずさんだりリズムを取る事があります。
他にも、脳血管疾患の後遺症である失語症において、単語を想起することが困難なことがあります。この場合においても、音楽に合わせて正しく歌うことができることがあります。
これらは普段用いられる言語の表出回路とは異なる領域が刺激されることにより表出可能であることや、音楽により感情に変化が現れることが作用しています。
音楽療法は介護予防や認知症予防としても注目されています。
介護予防としては主に、リズム体操による身体や口腔の体操をおこなうことで身体機能、口腔機能が向上します。認知症予防としては、脳機能を活性化することにあります。
音楽療法は高齢者だけでなく、発達障害の訓練にも取り入れられています。発達障害は自閉スペクトラム症、注意欠如多動症、限局性学習症を指します。中でも自閉スペクトラム症と知的障害の合併したカナータイプの自閉症児には音楽療法が効果的です。
自閉症は社会性コミュニケーションの障害です。知的能力が高ければ、他人と多少感覚が異なっていたとしても状況判断で適応することが可能です。
しかし、判断する能力が弱いと社会から孤立してしまいます。そこで、音楽療法が積極的に介入されるようになりました。
例えば、セッションが始まる時と終わる時にいつも同じ音楽を聴かせることで『ここから始まり』『ここで終わり』といった区切りが感覚的に理解できます。
また、リズムを刻みながら運動を促すことで自然と体が動き出すこともあります。この場合は単純に太鼓を叩くこともあれば、メロディーを奏でて運動を促すこともあります。本人が反応することが大切です。
楽器に触れてもらう能動的な音楽療法も効果的です。普段有意味語が出ない、あるいは少ない子であっても、楽器を用いることで音を上手く出せることと出せないことがあります。上手く音が出た時に周りの人が喜ぶと、本人も嬉しくなり他者とのコミュニケーションのきっかけとなります。
他にも言語発達遅滞児に発話を促したり、脳性麻痺児の運動を促す際にも音楽療法が用いられます。こうした訓練は理学療法士や言語聴覚士と協力しながら実施されます。
福祉施設では音楽を奏でて利用者の心の安定を図ることは、昔からおこなわれていることですが、単純にレクリエーションとして気分転換するのだけでなく、1つのセラピーとして確立されつつあります。
集団訓練やレクリエーションの場合は、他者との協同作業をする数少ない場面となります。
病気や怪我で自宅生活が困難な方は施設で気分が塞ぎがちになります。自己肯定感も低くなるため、他者への働きかけも少なくなります。
よって、音楽が嫌いでなければ積極的に音楽活動に参加してもらい、社会性を維持してもらうことが精神的にも良い作用を与えます。
音楽には障害者や高齢者に対して様々な効果があります。
1つはリラクゼーション効果です。音楽を聴くことで緊張感が解け、訓練に肯定的な感情で臨むことができます。受動的に好きな音楽を聴くことで心を落ち着ける作用があります。
2つ目は身体運動を促す効果です。リズムを刻むことにより身体運動を円滑にする効果があります。また、自然と体が動くようになり、運動機能訓練に良い作用を与えます。
3つ目は脳の活性化を促す効果です。能動的に演奏に参加して注意力や判断力を向上させることや、受動的に音楽を聴くことだけでも感覚が養われます。
4つ目はBGMとして音楽を流すことにより、雑音をかき消すマスキング効果です。施設や病院内ではパーソナルスペースが限られています。他者と共有する場所でストレスを感じにくくする作用があります。
音楽が無くても成立する訓練は多いのですが、音楽があることにより心を豊かにする場面も多くあります。病院や施設で生活する人々の気持ちを考えると音楽の効果はとても重要な役割を担っています。
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