産業カウンセラーになるには?受験資格やキャリアコンサルタントとの違い

産業カウンセラーになるには?受験資格やキャリアコンサルタントとの違い

記事作成日:2024.10.16
産業カウンセラーになるには?受験資格やキャリアコンサルタントとの違い

社会人になると、1日の大半は職場で過ごすことになる人がほとんどでしょう。毎日出勤する場所がストレスフルなところだと、働く気力もなくなっていきますよね。

産業カウンセラーは、働く人々に寄り添いながら、労働環境の改善や人間関係を良好にするためのサポートをする仕事です。

そこで今回は、産業カウンセラーになるための方法や求人、業務内容、そのほかの資格との違いについて詳しく解説します。

目次

1.産業カウンセラーになるには?

産業カウンセラーとは、働く人々の悩みやキャリアに関する相談に対応する、心の専門家のことです。

産業カウンセラーになるには、一般社団法人日本産業カウンセラー協会が認定する産業カウンセラーの資格を取得する必要があります。

まずは、産業カウンセラーになるための受験資格や養成講座、試験に関する情報を知っていきましょう。

1-1受験資格

産業カウンセラーの受験資格は、次の通りです。

ここでは簡単に解説しているので、この記事を読んで興味を持った人は一般社団法人日本産業カウンセラー協会のサイトをご覧ください。

次の①〜③のいずれかに該当する必要があります。
①協会認定の養成講座を修了した人
②-1.大学院において心理学等の選考を修了し、必要科目を20単位以上取得していること
②-2.社会人として週3日以上の職業経験を通算3年以上有しており、大学院において心理学等の選考を修了し、必要科目の単位を取得していること
③4年制大学を卒業し、公認心理士カリキュラムで必要単位を取得した人

しかし、②③は書類審査を通過できなければ、条件を満たしていても受験できない場合があります。

誰でも産業カウンセラーを目指せる可能性のある方法は、養成講座を受講することとなるでしょう。

1-2養成講座

産業カウンセラーの養成講座は、通学、通学とオンライン、フルオンラインの3種類の受講形式があります。

例年、 春・秋・冬の年3回開講されており、6か月コースと10か月コースがあるそうです。

6か月コースと10か月コースの違いは、受講期間の進捗ペース。
6か月コースは、短期集中型で学んでいきますが、10か月コースはじっくり復習しながら受講したい人に向いているコースです。いずれも受講料(税込352,000円)は変わらないので、自分の学び方に合わせて選びましょう。

1-3試験内容

産業カウンセラー試験は、学科試験と実技試験の両方が実施されます。

学科試験では、カウンセリングに関する基礎知識や、事例対応力に関する問題をマークシート方式で出題。

実技試験はカウンセリングのロールプレイが行われます。受験生同士で、交互にカウンセラーと相談者の役割を行い、試験管による口頭試問の時間もあるそうです。

1-4難易度と合格率

産業カウンセラー試験の合格率は60%台といわれています。

学科試験は全員受けることとなっていますが、実技試験は受験資格によっては免除されます。また、学科のみ合格した場合は、次の受験時は学科免除となるそうです。ただし、免除期間はそれぞれ限定されているようなので、免除期間内に合格する必要があります。

2.産業カウンセラーの求人・就職先

資格取得後、産業カウンセラーとしてどのような場所で働くのでしょうか。

産業カウンセラーが活動する分野を紹介します。

2-1民間企業・一般企業

一般企業では、次のパターンで働く産業カウンセラーが多いといわれています。

・相談室、健康相談室、カウンセリングルーム
・人事部や総務部
・そのほか

カウンセラーとして企業に勤める場合もあれば、すでに社員や管理職の一人として勤務している人が、産業カウンセラーの資格保有者として働く場合もあります。

これから資格取得を目指す場合は、カウンセラーとして勤務したいか、メンタルヘルス対策や専門的な教育研修の担当ができる社員として働きたいかを考えましょう。

2-2人材派遣会社など

派遣会社や人材紹介会社などに勤める産業カウンセラーもいます。

派遣先での悩み相談や、キャリア開発に関するサポートなどの業務がメイン。

派遣会社に勤める場合も、産業カウンセラーとして勤務することもあれば、ほかの業務と兼務する場合もあるようです。

企業によって異なりますが、この後紹介するキャリアコンサルタントの資格も持つダブルライセンスの人は、さらに活動の幅が広がるともいわれています。

2-3公的機関(学校や自治体など)

大学のキャリアサポートや就職支援、ハローワーク(公共職業安定所)なども、産業カウンセラーが活躍する場の1つです。

産業カウンセラーの仕事は、働く人々や働きたい人々の心に寄り添うことなので、資格を活かせる場は数多くあります。

2-4医療機関

臨床心理士や公認心理師など、医療機関の求人に応募できる資格も持つ人は、病院やクリニックに勤めています。

また、看護師や作業療法士など、医療機関で働く多職種が産業カウンセラーの資格を取得し、所属部署のメンタル担当を担う場合もあるそうです。

2-5そのほか

養成講座の受講者の声を見ると、次のようなところで働く人もいることがわかりました。

・養成講座の実技指導者(シニア産業カウンセラー資格が必須)
・行政書士事務所(傾聴力アップのために取得)
・会社経営(組織の人間関係構築のために取得)
・社内の相談室立ち上げ(健康保険組合の社員)

このように、産業カウンセラーの資格の活かし方はさまざまであることがわかります。

参考: 現役産業カウンセラーの声|一般社団法人 日本産業カウンセラー協会

3.産業カウンセラーの業務内容・役割

産業カウンセラーの役割は全部で3つありますが、ここでは「職場における人間関係開発・職場環境改善への支援」を「人間関係の支援」と「職場環境の改善」にわけて解説します。

3-1メンタルヘルスサポート・対策

企業にとっては成果が重要となる気持ちはわかります。なかにはモチベーションをあげるためとして、成果を評価の最重要事項とする企業もあります。

しかし、成果主義は労働者にとって、ストレスの要因となりやすいのです。

産業カウンセラーは、労働者のメンタルヘルスの維持や改善のためにサポートを行うことが重要となります。

また、近年増加している休職者や、メンタル疾患を抱えた状態の労働者のサポート、ストレスチェック結果が高ストレス者だった人のフォローなども産業カウンセラーの役割の1つです。

3-2職場環境の改善

職場環境の改善は、実際に問題が起きてからでは、本当の解決にはつながらないとされています。

産業カウンセラーは、職場環境の改善を予防の視点から対応する能力が必要です。一人ひとりが働きやすい環境だけでなく、チームとして機能するか、業務改善につながるかなどあらゆる視点で組織づくりの提案を行うこともあります。

また、予防策の1つとして社内研修や教育担当の役割を担うこともあるそうです。

3-3社内の人間関係の支援

社内全体や部署内でのトラブル発生は、職場の人間関係から発展している場合も多くあるでしょう。

一人ひとりが、最大限のパフォーマンスを発揮できる職場環境にするためにも、個人へのメンタルヘルスサポートも重要となります。上司と部下の関係が構築されているか、ハラスメントは起きていないか、仕事のバランスが偏って業務過多になっている社員はいないかなども産業カウンセラーのサポートの範囲。

その一環として、アサーショントレーニングやアンガーマネジメント、マインドフルネスなどの研修も担当することがあります。

■用語解説

・アサーショントレーニング
自分も相手も傷つけないコミュニケーション法のこと。
何も言わないのでもなく、互いのために話し合うために必要なスキルを身につけます。

・アンガーマネジメント
互いの価値観を受け入れ、人間関係を良好にするための方法。
怒りをマネジメント(上手に表出すべきときはする)ためのスキルです。

・マインドフルネス
集中力や作業効率向上、人間関係構築のために重要な心の状態を修得する方法。
瞑想のイメージが強いですが、瞑想以外にも考え方など、さまざまなトレーニングがあります。

3-4キャリア開発支援

産業カウンセラーは、労働者の上質な職業生活を実現するために日々キャリア相談に対応しています。

キャリア相談や将来の計画に関するサポートも業務の1つ。

近年の日本は、終身雇用の文化を取り入れる企業や労働者が減少傾向にあり、1つの会社にとどまり続けない人が増えています。産業カウンセラーは、労働者が今後どのように働けば、自らの可能性を広げられるかを考える役割も持つのです。

4.キャリアコンサルタントと産業カウンセラーの違い

産業カウンセラーと似ている資格に「キャリアコンサルタント」があります。

なかには、どちらを取るべきか迷った人や検討中の人もいるのではないでしょうか。ここでは、キャリアコンサルタントと産業カウンセラーの「資格」「仕事内容」「活動の場」の違いを解説します。

4-1資格の種類の違い

キャリアコンサルタントは国家資格ですが、産業カウンセラーは、一般社団法人日本産業カウンセラー協会が認定する民間資格です。

産業カウンセラーも認知度は高い資格ですが、資格の信頼性や求人数は、キャリアコンサルタントよりも少ないでしょう。

そのため、キャリアコンサルタントとのダブルライセンスや、そのほかの資格とのダブルライセンスの人が多いといわれています。

4-2仕事内容の違い

産業カウンセラーの仕事内容のメインは、労働者のメンタルヘルスのサポートです。

一方、キャリアコンサルタントはメンタルなどに悩みを抱えた方は専門としていませんが、キャリアに関する専門家ではあります。

職場環境や人間関係なども含め、キャリア相談対応をしたい人は産業カウンセラー、広義の意味でキャリア全般の提案や支援を行いたい人はキャリアコンサルタントがよいでしょう。

4-3活動の場の違い

産業カウンセラーは、どちらかといえば「現在就労されている人」や「休職中の人」「職場復帰する人」の相談対応を行います。そのため、企業内やハローワーク、医療機関などで働いている方が多いです。

しかし、キャリアコンサルタントは転職エージェントや人材派遣会社など、仕事を決める場、キャリア選択の場で活躍している人が多いといわれています。

4-4共通点もある

キャリアコンサルタントも産業カウンセラーも、どちらも労働者やキャリアに悩みを抱えている人を対象としています。

しかし、どちらも業務独占資格ではないため、企業によってはキャリアコンサルティングや労働者のメンタルヘルス対策を、無資格の人が行っている場合もあるのです。

産業カウンセラーのみを雇っているところは少なく、資格取得はあくまでもスキルアップの一環ととらえておくといいかもしれません。

4-5そのほかの資格との違い

キャリアコンサルタント以外にも、産業カウンセラーと同じ領域で働く資格が複数あります。

今回はそのなかでも、臨床心理士・公認心理師、精神保健福祉士、産業医が近しい職業といえます。

臨床心理士・公認心理師

公認心理師や臨床心理士は、産業領域に限らず、医療や福祉、教育、司法などの分野でも活動するカウンセラーです。

産業領域以外でも働いてみたい人は、そちらのカウンセラー資格の方がいいでしょう。しかし、公認心理師や臨床心理士になるには、大学・大学院を卒業する必要があります。受験資格を得るためには、なかなか時間も労力も費用も必要となる資格です。

精神保健福祉士

メンタルヘルスサポートの面では、精神保健福祉士も企業で働いている人がいます。

一般企業で働く精神保健福祉士の業務は、人事や総務などで、労働環境を整えることなどです。「産業ソーシャルワーカー」という名前で労働者や企業が抱える問題に対する相談支援やアドバイスを行います。

お気づきの人もいるように、産業カウンセラーと業務内容がほぼ同じです。しかし、医療や福祉と比べると「精神保健福祉士を求める企業」はまだ少ないのが現状でしょう。

産業医

産業医は、企業内で労働者の健康管理などを行う医師のことです。

厚生労働省によれば、次の9つの職務があるとされています。
①健康診断の実施とフォローアップ
②長時間労働者への面談とフォローアップ
③ストレスチェック実施や高ストレス者への面接、フォローアップ
④作業環境の管理・調整
⑤作業管理
⑥①~⑤以外の労働者の健康管理
⑦健康教育や相談支援
⑧衛生教育
⑨労働者の健康障害に関する調査と再発予防

このように、産業医は相談支援だけでなく教育や管理も担っており、医学的観点から上記の職務を行うこととなっています。

参考: 産業医ができること|厚生労働省

5.産業カウンセラーに必要なスキル

産業カウンセラーに必要なスキルは次の3つです。

特に2と3は、労働者のサポートをする産業カウンセラーならではの必須スキルといえるでしょう。

5-1傾聴力・カウンセリングスキル

労働者などが抱える、仕事上の課題と心理的な課題をじっくり話を伺いながらサポートすることが重要。

産業カウンセラーは、資格や専門知識を活かし、労働者の悩みに耳を傾けるための傾聴力やカウンセリングスキルが必要となります。

傾聴力やカウンセリングスキルは、ほかのカウンセラー資格でも身につきますが、養成講座で学ぶことで「産業カウンセラーにとって必要な傾聴スキル」を学べるでしょう。

5-2労働に関する知識

何度も解説していますが、産業カウンセラーの仕事は労働者に対するメンタルヘルスサポートです。

心理学や精神疾患、ストレス対処に関する知識を持っていても、労働に関する知識がなければ対応できないこともあります。

たとえば、職場の環境調整や働きやすいチーム作りのためのアドバイスは、心理学の知識やカウンセリングスキルだけではできません。養成講座であれば、産業組織心理学や労働関係法規なども学びますが、養成講座を受講しない人は自ら最低限必要な知識を身につけましょう。

5-3臨機応変な対応力

産業カウンセラーが対応するのは、個人だけとは限りません。

相談者の上司や部下、チーム、部署、管理職、企業全体など、集団や組織を相手に対応することもあります。一人ひとりに寄り添うことも大事ですが、関係性や全体像を見て、臨機応変に対応する力は産業カウンセラーにとって必要なスキルです。

6.企業内カウンセラーは無資格でもなれる?

結論から申し上げますと、無資格でもなれます。

ただし、求人の募集要項に無資格と書いていても、ライバルが有資格者の場合は不利になります。また、「2.産業カウンセラーの求人・就職先」のそのほかの就職先で紹介した「社内に相談室を作る」場合も、資格があった方が説得力が増すでしょう。

つまり、無資格で働けないわけではなく、有資格者のほうが有利ということです。

それでも実績を積むために資格取得前に、無資格OKの求人へチャレンジすることは選択肢としてありだと考えられます。最後に紹介する資格を先に取得して、知識とスキル、自己アピールの手段を増やすのも1つの方法でしょう。

7.産業カウンセラーの年収

正社員として民間企業に雇用される場合なら、300~500万円が平均年収といわれています。

産業カウンセラーは、契約社員やパート、業務委託などの働き方もあり、先に紹介した通り「今の仕事に活かしている」人たちもいるため、平均年収を出すのは難しいようです。

求人ボックスで検索したところ、産業カウンセラーの正社員は月収20万円~でした。キャリアコンサルタントだと月収28万円以上の求人もあるので、どちらの資格も取得することで年収アップも見込めるでしょう。

8.産業カウンセラーへの一歩!土台にもなる初学者向け資格3選

産業カウンセラーは、臨床心理士や公認心理師と比較すると取得のハードルは低いですが、養成講座受講など、費用と期間はある程度かかります。学科や実技試験も、ある程度の勉強が必要であり、決して簡単なものではありません。

心理学を学ぶのが初めての人や、少し興味があるけど実際に仕事にするかは悩んでいる人は、これから紹介する3つの資格がおすすめです。

1.アンガーカウンセラー®
2.行動心理カウンセラー®
3.瞑想インストラクター資格

上記の資格は、「社内の人間関係の支援」で紹介したメンタルヘルスサポートのための専門知識の証明にもなります。

8-1アンガーカウンセラー®

アンガーカウンセラー®とは、アンガーマネジメントに関する正しい知識とトレーニングのためのスキルを持つ人に与えられる資格です。

怒りを引き起こしやすい思考や、心の余裕を作るためのテクニックなど、労働者が知りたい「実践的な知識」を有しているので、企業内で活躍する際にも役立つでしょう。

8-2行動心理カウンセラー®

行動心理カウンセラー®は、心理学や行動科学の知識やスキルを持つことを証明する資格です。

人間関係やビジネスにも応用できる知識を持つ証となっているため、カウンセラーとして企業やキャリアに悩む人の力にもなれるでしょう。

8-3瞑想インストラクター資格

瞑想インストラクター資格とは、瞑想に関する知識を持つ人に与えられる資格です。

瞑想とは、マインドフルネスのためにも必要な方法の1つ。

マインドフルネス瞑想は、記憶力や集中力UPの効果が期待されていて、仕事の効率化や人間関係を良好にすることにも役立ちます。大手企業であるGoogle社では、マインドフルネスを積極的に取り入れるためのプログラムを開発。日本でもマインドフルネスに関する研修などを行う企業が増えているようです。

瞑想インストラクターの資格があれば、社内研修だけでなく、カウンセリングのなかでもマインドフルネス瞑想の時間などを取り入れられます。

9.まとめ

産業カウンセラーは、労働者や労働希望者の心に寄り添う専門家です。

メンタルヘルスサポートや職場環境の改善、社内の人間関係の支援、キャリア開発支援などを主な業務とし、困っている人々や企業の力となっています。

産業カウンセラーとして働きたい人、働く人々のサポートをしたい人にはとてもおすすめな資格です。現在の仕事にも活かせることも多いので、興味を持った人はまず養成講座や受験資格について、さらに詳しく調べてみてくださいね。

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