ストレスは誰でも感じるものですが、程度によってはメンタルヘルスに不調が生じることがあります。
つまり、誰でもメンタルヘルス不調になる可能性があり、予防や対策が必要といえるでしょう。今回は、メンタルヘルスとは何か、注目される理由や不調のサイン、ストレスケア方法などをわかりやすく解説します。
メンタルヘルスとは、心の状態のことです。
身体がだるい、眠気がする、熱が出る、痛みがあるという感覚と同じように心も不調を感じます。
身体の不調は、自分だけでなく他者から見てもわかりやすいですが、心の不調は目に見えないだけでなく複雑です。
気づかないうちに状態が悪化してしまって、なかなか回復に時間がかかることもあります。
メンタルヘルスが注目される理由は、主に次の3つが考えられます。
1.心の病気の増加
2.情報化社会
3.マルチタスク
それぞれ詳しく解説していきます。
厚生労働省によると、心の病気(精神疾患)を有する患者数は、毎年増加していることがわかりました。
令和2年のデータでは、入院・外来含め過去最高の614万人という数値が発表され、外来患者は586万人であることがわかっています。
疾患別でみると、気分障害(うつ病など)が最も多い169万人で、次にストレス関連障害及び身体表現性障害が123万人でした。このような事態を防ぐためにも、メンタルヘルスに注目し、メンタルヘルスケアをするのは重要なのです。
参考:
第4回新たな地域医療構想等に関する検討会(資料)|公益社団法人日本精神科病院協会
情報量がありすぎる(情報過多)状態と、メンタルヘルスには深い関係があります。
私たちは日々、選択する場面が何度もあるだけでなく、目や耳から入ってくる情報も非常に多いのです。
たとえば、ご飯は何を食べるか、何時に外出するかも選択肢から選んでいますよね。ほかにも、SNSの普及により調べ物も便利になっています。
特に近年はSNSの「おすすめ機能」の影響によって、自分で調べなくても知りたい情報が手に入りやすくなりました。
便利である反面、次の悪影響が指摘されています。
・選べなくなって、無力感が生じる
・決断できず、同じ選択を取りがちになる
・選択しなかった方がよく見えて後悔する
・考えることに疲れてしまう
情報化社会は、便利な世の中になったというイメージがありますが、いいことばかりではないことも知っておきましょう。
参考:
中尾睦宏 .『情報化社会で の 職 場 の メ ン タル ヘ ル ス うつ と身体 自覚症 状 との 関連 一』日本心身医学会(2004)
マルチタスクとは、複数のことを同時進行したり、短期間で作業を切り替えることを繰り返したりすることをいいます。
反対の言葉にシングルタスク(1つの作業に集中する)がありますが、世の中はマルチタスクを推奨する傾向にあるようです。
しかし、そのマルチタスクこそがメンタル不調の原因となると指摘されています。
理由は、マルチタスクのデメリットに次のようなことがあるからです。
・キャパオーバーとなりやすい
・作業が中途半端になりやすい
・ミスが生じやすい
・脳疲労を起こしやすい
マルチタスクが得意な人であっても、やり方次第では上記の状態になりやすいといわれています。
求められやすい能力ですが、かえって非効率な状態も作りやすいため、メンタルヘルスケアではタスクからはなれる時間や、シングルタスクが推奨されているのです。
みなさんは、自分自身のメンタルヘルス不調や、ストレスのサインをどのくらい知っていますか?
多くの人はこれから紹介するサインが、継続して起きた時やさらに悪化したときにはじめて気づくことが多いです。
心のサインには、次のようなものがあります。
・不安や心配事をつい考えてしまう
・些細なことでイライラしやすくなる
・好きなことが楽しめなくなる
・落ち込みやすい
・自信がなくなる
・やる気が起きなくなる
・人と自分を比較しやすくなる
・他者を羨ましいと感じやすい
・物事を考える気力がなくなる
・急に涙が出てくる
・緊張しやすくなる、動機がする
など
メンタルヘルス不調のなかでも心のサインは、日常のさまざまな場面に潜んでいるけど、わかりにくいものです。まずは、自分の心のサインに気づいてあげましょう。
体のサインには、次のようなものがあります。
・頭痛や肩こり、関節痛などがある
・目が疲れている
・めまいやふらつきがある
・耳鳴りがする
・肌荒れがある
・体がだるい
・寝付けない、眠りが浅い
もしくはたくさん寝てしまう
・食欲がない、もしくは食欲が止まらない
・下痢や便秘の症状がでる
体の症状はわかりやすい反面、一時的なものと感じたり、気合で何とかしようとする人もいます。
また、「いつものこと」と考えて放っておく人もいるでしょう。しかし、体の不調が先行し継続し続けることで心の不調になることもあります。
行動のサインには、次のようなものがあります。
・衝動買いをしてしまう
・焦ったり、じっとしていられなくなる
・遅刻、早退、欠勤する
・飲みすぎや食べ過ぎてしまう
・生活が乱れる(片付かない、洗い物がたまるなど)
・ミスが増える
・集中力が続かない
・けがをしやすい
・夢をよく見る
・夜に目が覚める、トイレに行きたくなる
など
行動のサインは、心や体のサインとのつながりがありますが、深刻に考えない人もいます。
サインに気づいてから、もしくはサインが出る前に私たちにできることが「メンタルヘルスケア」です。
今回は「個人」「家庭」「職場」に分けて紹介します。
個人にできることは、できるだけ毎日取り組めるといいでしょう。
たとえば、次のようなメンタルヘルスケアの方法がおすすめです。
・適度に体を動かす
・自分の気持ちを紙に書き出す
・深呼吸をする
・ゆっくりお風呂に入る
・安心できる人と交流する
・趣味に没頭する
・ゆっくり食事を楽しむ
・マインドフルネスやヨガを取り入れる
など
また、心理学ではセルフケアとして「コーピング」という方法が推奨されています。
コーピングとは、ストレスに対してうまく対処する方法のこと。社会で生きて入れば、ストレスを全く感じないことはほとんどないでしょう。
だからこそ、ストレスとうまく付き合う方法や、感じにくくなる方法を取り入れることが重要です。コーピングは上記で紹介したセルフケアの方法を「たくさん持っておく」という意味でも使われている用語。
ただし、いくらリラックスできるとしても「お酒を飲む」「タバコを吸う」など体の健康を害する行為は、コーピングに入れないようにしましょう。
家庭内でケアをする、気づく側としてのメンタルヘルスケアを紹介します。
・家族のいつもと違う様子に気づく
・相手の話を否定せずに聞く
・家族が安心できる環境を整える
・むやみに励まさない、鼓舞しない
・原因探しばかりせず、見守る
・腫物のように扱わず、いつも通りで
・感情をぶつけ合わず、離れることも必要
など
家族やパートナーと一緒にいると、なかなか一人になれる時間もないでしょう。
自室があるとしても、音や声が聞こえたり、気配で休まらない人もいます。
可能であれば、数時間でも完全に離れる時間を作ることも重要です。また、子どもに対しても上記のケアは有効となります。
社会人になると、生活の大半は職場で過ごすことになりますよね。
職場でできるメンタルヘルスケアには、次のようなものがあります。
・セルフケア
・ラインケア
・事業内の産業保健スタッフ等によるケア
・事業場外の資源によるケア
セルフケアは「個人ができること」で紹介したことのほかに、小休憩を適度に取ったり、有休を取得したり、残業を極力減らしたりすることも当てはまります。
また、業務過多にならないように、上司と相談できる時間も定期的に設けられるといいでしょう。
ラインケアは、本人ではなく管理職や上司、先輩などが従業員のメンタルヘルス不調に気づき、対応していくことを指します。
近年、定期的な1on1(ワンオンワン)を取り入れる企業は増えてきました。1on1とは、上司と部下が一対一で対話することですが、部下からすると「話しにくい」「管理されている気がする」「怒られるのでは」というイメージもあるようです。
工夫しても、なかには苦痛を伴う人もいますが、上司が話しやすい雰囲気を作り出すだけでも、イメージを少しは払しょくできるでしょう。
事業内の産業保健スタッフ等によるケアとは、企業内に所属もしくは担当者として就いているスタッフによるケアのことです。
スタッフには、産業医や保健師、産業カウンセラー、衛生管理者、人事担当者などが該当します。個人に対するケアを行うほかに、業務や職場環境の改善、健康管理、メンタルヘルスケアのための計画立案と実行などを担います。
事業場外の資源によるケアとは、職場以外の専門機関を活用するケア方法です。
例えば、医療機関や外部EAP(従業員支援プログラム)会社、カウンセリングルームなどが該当します。
外部を活用するメリットは、相談者側が企業や上司の目を気にせず安心して相談できたり、第三者視点でサポートや提案をしてもらえることです。
メンタルヘルス対策には、基本的な予防の3段階(一次予防、二次予防、三次予防)があるとされています。
一次予防は未然予防のことです。
ストレスによってメンタルヘルス不調となる人が増えないように、未然に防ぐための策を考えます。
たとえば、メンタルヘルスに関するセミナーや研修を開催する、SNSやネットで啓発活動を行うなども一次予防です。そのほかには、ストレスの原因となりそうな状況や環境を把握し、改善を目指すことも含まれています。
一次予防のうちに防げれば、対人トラブルや精神疾患の発病、休職・退職、不登校、自傷他害、自殺なども回避できる可能性が高まるでしょう。
二次予防は早期発見・早期治療(対処)のことです。
メンタルヘルス不調を起こしている人を早期に見つけ、早期に治療や対処を行います。なるべく早期発見しやすい状況を作るためには、次のようなポイントが重要です。
・正しい知識の理解と提供
・定期的な面談やアンケート調査
・相談窓口の設置
・対処できる職員や外部機関との連携
職場も学校も共通しているポイントとなります。
また、個人や家庭においても正しい知識の理解は重要であり、定期的に話し合い、わずかな変化に気づくことも二次予防に当てはまるのです。
三次予防は不調となった人が、回復し再発予防をするための支援のことです。
■職場の三次予防
・休職中の職員に対する面談
・職場復帰のための面談
・職場復帰に向けた対策の立案
・リハビリ出勤
・セルフケアに関する提案
など
■学校の三次予防
・不登校児童/生徒の重症化防止
・登校しやすい環境調整
・登校後の定期面談、フォローアップ
・いじめた側などへの生徒指導
など
職場復帰や再発予防のために、支援を行うこと全般が含まれています。
メンタル不調が続くことで、発症しやすくなる精神疾患を紹介します。
「3.メンタル不調・ストレスのサイン」に少しでも心当たりのある人は、悪化して長期化してしまう前に早期対処を行いましょう。
参考: DSM-5-TR 精神疾患の分類と診断の手引
適応障害(適応反応症)とは、明確なストレスによって、精神症状や身体症状が出現し、社会生活に影響している状態です。診断基準としては、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の仲間とされています。
適応反応症の症状には、次のようなものがあります。
・抑うつ気分
・不安感
・イライラ
・焦り
・落ち込み
・やる気がなくなる
・暴飲暴食
・職場や学校へ行きたくなくなる
・動悸やめまい
・汗をかく
・緊張する
・食欲低下
など
ストレスの原因となる出来事が生じて、1か月以内に上記の症状が見られます。また、診断基準には、ストレスから離れて6か月以上症状が持続することはないとされていると記載されています。
上記の症状が2週間以上続く場合は、次に紹介するうつ病と診断される可能性が高まるでしょう。
うつ病は、気分障害の一種で、憂うつな気分や行動に対する意欲の手かが生じている状態です。
発症の原因は明らかとなっておらず、症状の出現の仕方も人それぞれです。軽度の場合、本人も周りも気づかないことがあるので、重症化させないためにも早期発見が重要となります。
■うつ病の症状
・気分が落ち込む、憂うつな気分
・楽しめてたことへ関心がなくなる
・物事を悪い方へ考える
・涙もろくなる
・自分を責めやすくなる
・イライラする
・笑顔が少なくなる
・食欲低下もしくは食欲増進
・性欲低下
・睡眠トラブル(入眠困難など)
・頭痛や関節痛
・めまい、動悸
・口が乾く
・疲れやすい、疲れが取れない
など
ほかにも症状はたくさんありますが、気分の浮き沈みや衝動買い、性欲の亢進などがある場合、双極性障害(双極症)である可能性も考えられます。
不安障害(不安症・不安症候群)には、パニック障害(パニック症)や分離不安症など、さまざまな疾患が分類されています。
■不安症の種類
・パニック症
・社交不安症(SAD)
・分離不安症
・場面緘黙
・限局性恐怖症
・広場恐怖症
・全般不安症
・物質・医薬品誘発性不安症
・他の医学的状態による不安症
・その他の特定される不安症
※診断名は「障害」から「症」となりました。
それぞれに診断基準があります。恐怖や不安が日常生活にきたしている状態に診断され、不安症はほかの精神疾患よりも基準を満たしている人が多いといわれています。
睡眠障害(不眠症・睡眠覚醒障害)とは、次の症状があるといわれています。
・入眠障害:寝付くのに2時間以上がかかる
・中途覚醒:いったん寝ても夜中に2回以上目が覚める
・熟眠障害:寝たのにぐっすり寝た気がしない
・早朝覚醒:予定よりも2時間以上早く目が覚める
不眠は誰でも経験があるものかもしれませんが、睡眠障害の場合は十分な睡眠が得られないことにより、日中の生活に支障をきたしている状態を指します。
睡眠時間の問題ではなく、症状によって「眠れていなくて困っている」という状態であれば不眠症と診断されます。
ここまでメンタルヘルスに関して、さまざまなことを解説しました。
ストレスは誰でも少なからず感じているものですが、メンタルヘルス不調になる人とならない人がいます。最後にメンタルヘルス不調になりやすい人の特徴を紹介します。
ただし、当てはまらないからといって不調にならないわけではなく、当てはまっているから絶対に不調になるわけでもありません。
完璧主義とは、理想や高い目標を持ち、それらを達成するための努力をする人のことです。
よく「目標を持っても、うまくいかないから完璧主義ではない」という方もいますが、完璧主義=完璧な成果を出しているわけではありません。
完璧主義の人がメンタルヘルス不調になりやすい理由は、次のようなものがあります。
・失敗を認められないから
・欠点を探す癖がついているから
・落ち込んで立ち直るのが苦手だから
完璧主義自体がダメなのではなく、完璧主義である結果、計画や理想通りにいかなかったときに自己否定になってしまうことが問題なのです。
同じ完璧主義でも、高い目標を持って積極的に行動し、失敗しても次に活かして理想を追求する人は、不調になりにくいでしょう。
断ることが苦手な人は、自分のキャパを超えてしまうことがあり、その結果メンタルヘルス不調になりやすいといわれています。
また、ストレスに気づきにくく、不調になってから「キャパを超えていた」ことに気づくこともあるのです。結果的に締め切りなどに間に合わず、周囲のサポートを要することとなって「自分はできない」という悪循環になってしまいます。
悪循環にならないためにも、自分のキャパや得意と苦手を知り、断る勇気を持つことが大切になります。
そのほかにも、嫌われたくない、評価が下がるのが怖い、期待に応えたいなどの気持ちから、自分で勝手に自分自身にプレッシャーをかけてしまっている人もいます。
真面目な人も、自分で責任を背負いすぎてメンタルヘルス不調になることがあります。
休むことがよくないと考えたり、人に頼むことは申し訳ないことだと思っていませんか?
真面目な人は、自分では気づかないうちに周囲へ気を使いすぎて、疲れが取れなくなり、メンタルヘルス不調となってしまうことがあります。
ここまで紹介した3つの特徴のいずれかを持つ人は、「相談が苦手」という特徴も持っています。
軽く愚痴を言ったり、状況を話したりはできても、「相談」となるとできない人もいれば、誰にも愚痴も何も言わない人もいます。
そのような人は、不安や不満、もやもやした気持ちを抱え込みすぎてしまい、結果的に自分を責めることとなってメンタルヘルス不調をきたすことがあるのです。
メンタルヘルスとは心の状態のことであり、不調になると生活に支障をきたしたり、精神疾患になることがあります。
自分を大切にして、セルフケアすることは、仕事や人間関係のためにも必要なことです。
今回紹介したメンタルヘルスケアの方法を実行し、心理学などで正しい知識を学びながら、自分を大切にしていきましょう。
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