心理アセスメントは、カウンセリングに訪れるクライエントの悩み解決のために重要なものです。
しかし、カウンセリングの手法と異なり、なかなか一般的には聞かない言葉ですよね。そこで今回は、心理カウンセラーを目指す人のために、心理アセスメントに関する必要最低限の知識を集めてみました。
この記事を読んで心理アセスメントの必要性や、具体的な方法、アセスメントのために必要な視点などを理解しておきましょう。
心理アセスメントを理解するために、まずはそもそもアセスメントとはなにか、心理アセスメントとはなにかを解説します。
アセスメント(assessment)とは、評価や査定を意味する言葉であり、心理学だけではなく次のような領域でも使用される言葉です。
・看護
・福祉、介護
・人材(適性を見る際など)
・組織(組織課題を見つける際など)
このように、アセスメントとはさまざまな場面において、客観的な指標に基づき評価を行います。
心理アセスメントとは、臨床心理士や公認心理師などのカウンセラーが、クライエント(相談者)の課題を理解することを指します。
医師の診断と似ているところもありますが、診断の場合はどちらかといえば治療のために、ネガティブな側面を見て評価を行います。一方、カウンセラーのアセスメントは、健全な面やその人らしさなども含めて評価を行うのです。
<心理アセスメントの目的>
・クライエントの支援方法を考えるため
・支援方法の効果を適切に評価するため
・経過についての見通しを判断するため
相談者の特徴や状況の把握のために、心理アセスメントは行われます。
心理アセスメントはなぜ重要なのでしょうか?心理アセスメントが必要な背景を詳しく解説します。
先ほど心理アセスメントの目的をお伝えしたように、クライエントに対する適切な介入を行うためです。
例えば、「仕事でうまくいかなくて落ち込んでいる人」がカウンセリングに訪れたとします。
・Aさん
上司との関係に悩んでいて、相談できる人もいなくて、疲れが取れない
・Bさん
幼少期から忘れ物やなくしものが多かったけどなんとかなっていて、社会人になってから指摘されるようになった
「仕事でうまくいかなくて落ち込んでいる人」だけど違いがありますよね。
このように、「人間関係」「仕事」「恋愛」「子育て」でも同じような背景で悩んでいるとは限らないのです。心理アセスメントは、一人ひとりの悩み解決のために個人の特徴や状態を把握します。
適切な介入ができているか効果を見極めたり、経過の見通しを図るためにも、心理アセスメントは重要です。
カウンセリングは、初回のアセスメントだけでは適切な支援を行えません。定期的にクライエントの心理状態等を見極め、介入や支援の効果が出ているかを判断する必要があります。
判断するためにも、経過のなかで心理アセスメントを行うことも重要なのです。
心理アセスメントは、「観察法」「面接法」「検査法」の3つの方法が最も実施されています。
関係者に話を伺うことなどもありますが、一般的にはこの3つが心理アセスメントの方法です。
心理アセスメントを実施するためにも、それぞれの違いについて理解を深めましょう。
観察法は、行動観察法とも呼ばれ、クライエントの行動を観察するアセスメント方法です。
観察法には次の3種類があります。
①自然観察法
②実験観察法
③関与観察法
それぞれを詳しく解説します。
自然観察法は、クライエントのありのままの状態を観察する方法です。
観察方法には次の技法があります。
・日誌法:記録ノートを書いてもらい、分析する
・時間見本法:特定の時間で区切って、観察項目をチェックする
・場面見本法:特定の場面を見て、反応を観察する
・事象見本法:選択肢から選んだ行動を集中的に観察する
たとえば、職場の特定の業務のときの様子を見る場合は「場面見本法」、午前中だけ訪問して観察するなら「時間見本法」となります。
実験観察法は、観察者側が意図的に状況を作り出して、クライエントの反応を観察する方法です。
行動観察法のイメージは、実験観察法の人が多いかもしれません。
自然観察法と異なり、意図的に操作する側面もあるため、注意深く観察しつつ、介入方法も常に考えながら動く必要があります。
関与観察法(参与観察法)は、精神科医のサリヴァン氏が提唱した方法です。
「関与しながらの観察」という言葉で、もしかすると聞いたことがある人もいるかもしれません。
クライエントと行動をともにしながら観察を行い、治療的関わりが前提となっています。そのため、カウンセリングを継続するなかで行うことも多く、クライエントに少なからずの影響を与えるといわれています。
関与観察法単独の実施は、客観性が薄れるという視点から、ほかのアセスメント方法と合わせて行うことも。反対に非関与観察法といって、全く関わらずに観察する方法もあります。
面接法は、クライエントと対話をすることで理解を深めていくアセスメント方法です。
面接法には「調査的面接法」と「臨床的面接法」があり、どちらもよく使用されています。
■調査的面接法
・構造化面接:あらかじめ用意した質問に答えてもらう方法
・非構造化面接:大まかな流れは想定しつつ、質問は決めない方法
・半構造化面接:決めていた質問もしながら、柔軟に対応する方法
■臨床的面接法
クライエントの抱える問題の解決を目的とした方法です。
心理療法を行うことを臨床的面接法という場合もあれば、クライエントの話を伺いながら、必要に応じてフィードバック(プロの見解)をお伝えします。
検査法は、心理検査を通してクライエントの心理状況などを分析する方法です。
■検査法の種類
・知能検査・発達検査
・質問紙法(主に性格検査)
・投影法(主に性格検査)
・作業法
代表的な心理検査とともに、解説します。
知能や発達状況を見ることで、同年代と過ごしていてどのような苦労があるかなどをアセスメントします。
知能検査や発達検査の多くは、臨床心理士・公認心理師などの資格を持った人のみが実施できる検査です。
■知能検査の種類
・ウェクスラー式(WPPSI,WISC,WAIS)
・K-ABC
・ビネー式(田中ビネー、鈴木ビネー)
・HDS-R(長谷川式簡易知能評価スケール)
・MMSE(ミニメンタルステート検査)など
■発達検査の種類
・新版K式発達検査2001
・津守式乳幼児精神発達診断法
・Vineland
そのほか、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害などをアセスメントする検査も数多くあります。
「選択式」もしくは「自由記述式」の質問紙を用いて行います。
質問紙法は、カウンセラーが質問を用意するのではなく、客観的データで分析できる質問紙を用いることが多いです。
■代表的な検査
YG性格検査
MMPI(ミネソタ多面人格目録)
TEG(東大式エゴグラム)
GHQ(精神健康調査票)
CES-D(うつ病自己評価尺度)
QIDS-J(簡易抑うつ症尺度)
これらはそれぞれに決まった分析方法があり、分析結果に伴って支援方法を考えていきます。
絵や文字など、あいまいな視覚刺激や言語刺激を用いて、クライエントがどのように反応するかを見るアセスメント方法です。
質問紙法よりもクライエントが「何のためにやっているのか」がわかりにくいため、ごまかすことがないというメリットがあります。一方で、分析結果は、ベースとなる方法はあるものの熟練した臨床家と、初学者では違いが出るといわれています。
■代表的な検査
・ロールシャッハテスト
・バウムテスト
・P-Fスタディ
・文章完成法
など
カウンセリング場面よりも、就職面接の前に実施される方が多いアセスメント方法です。
内田=クレペリン検査という単純作業検査を用いて、作業量から個人の能力や行動の傾向を図る方法となっています。
テストバッテリーとは、複数の検査法を用いて多面的にアセスメントする方法です。
1つの検査では、「個人の一部しか見ることができない」という考えから取り入れられています。性格をアセスメントする際のテストバッテリーは、質問紙法+投影法が基本です。
また、投影法のなかでもある程度の衝撃を与える可能性のある検査は、先に行わない方がいいといわれています。
心理アセスメントのために、知っておくべき重要な知識を紹介します。
心理アセスメントは、クライエントの許可なく勝手に行われるものではありません。
特に心理検査やカウンセリングの実施は、心理アセスメントが開始前に説明と同意を行います。
たとえば、心理検査は何のために行われるのか、体調不良や心理的負荷がかかった場合の中止に関する説明などが含まれています。
先に書面で説明する場合もあれば、実施前にクライエントが理解できるように言葉で丁寧に説明することも。幼い子どもや認知機能が低下している高齢者の場合は、家族に説明と同意を求めますが、基本的には本人に行います。
心理アセスメントのための重要な視点が、生物心理社会モデルです。
心理カウンセラーは心の専門家ですが、心だけを見ることはありません。
たとえば、職場で適応障害となって休職中のクライエントが、職場復帰のための相談へ来たとします。
そこで行われる心理アセスメントは、クライエントの性格や気質・ストレス状態(心理面)、身体疾患の有無など(生物面)、職場環境や家庭環境(社会面)を対話や心理テストなどを用いてアセスメントします。
ロジャーズの三原則とは、カウンセリング中のカウンセラーの基本姿勢のことです。
カウンセリングは、臨床的面接法や関与観察法でも解説しましたが、カウンセラーとの対話がクライエントに影響を与えます。
だからこそ、カウンセラーは自身のカウンセリング中の姿勢を意識する必要があるのです。
■ロジャーズの三原則
・共感的理解:クライエントの立場になって、共感しながら理解を深めようとする
・無条件の肯定的関心:クライエントの話をジャッジせず、否定せず聴く
・自己一致:真摯な態度で聴き、わからないことは正直にクライエントに確認する
クライエントの話を聴いて、きちんと適切に心理アセスメントするには事実の理解が必要です。
・客観的事実:クライエントの周辺で起きている事実
・主観的事実:クライエントが感じていること
面接法などを用いながら見極めて、心理アセスメントを行います。
事実のほかに、クライエントの行動に注目することも心理アセスメントの1つです。
行動には、さまざまな要因が複雑に絡み合っている場合があります。行動に着目した場合、生物心理社会モデルを用いてアセスメントします。
たとえば、出勤のための電車に乗れないという行動に注目したとしましょう。
吐き気やめまい(生物面)があり、仕事に行きたくない気持ちと行かなければいけないという焦りを感じ(心理面)、上司がよく叱責してくる(社会面)という点から、互いに影響を与え合って電車に乗れなくなっている可能性を考えます。
エビデンス(科学的根拠)に基づいた心理アセスメントの方法を、エビデンスベイストアプローチといいます。
クライエントの不利益にならないように、必要最低限のアセスメントのための知識を習得し、データから分析をする方法です。深い知識と、専門家としての臨床経験が必要な方法となります。
診察との違いで解説したように、カウンセリングはクライエントの健全な面や、その人らしさなども含めて評価しながら関わります。
わかりやすくいうと、クライエントの持つ考え方やできていること、得意なこと、長所などにも目を向けて関わるということです。
悩みを抱えている人の多くは、できないことに目が行きがち。カウンセラーはその気持ちに寄り添いながらも、クライエントのできているところや前向きな側面に目を向けることで、クライエントが自分でもそう思えるように関わっていきます。
一般的にカウンセリングを実施する際は、次のような順で心理アセスメントが行われます。
1.初回・インテーク面接
2.アセスメント面接
3.ケースフォーミュレーション
4.継続カウンセリング
それぞれの流れのなかに、心理検査を組み込む場合なども補足で説明していきます。
まず初回面接・インテーク面接を行います。
次のようなことを対話を通して把握していく回であり、機関によっては90分近く時間を要します。
・相談内容
・現病歴(今の悩みに至るまでの経過)
・成育歴(生まれてから今日までの自分史)
・家族歴(家族構成や性格、関係性、病歴など)
初回面接で大切なのは、情報収集ではなく、クライエントが「相談に来てよかった」「話しやすい環境だった」と感じることです。この初回面接は、今後のカウンセラーとクライエントの関係にも大きく影響します。
強引にカウンセラーが聴きたいことをすべて聞き出そうとせず、まずはクライエントが安心できる環境を意識しましょう。
アセスメント面接とは、初回で話しきれなかったことを少しずつ伺っていく面接です。
初回である程度の見立て(特徴を把握し、方針を立てられる状態)ができていれば、アセスメント面接は省略して、ケースフォーミュレーションに移ります。
アセスメント面接を行う場合は、だいたい5回以内に完了させることが多いです。実施の際には、クライエントに方針を決めるために伺いたい話があることや、これからのカウンセリングの進め方を提案します。
また、アセスメント面接のなかでカウンセラーとクライエントの信頼関係(ラポール)が構築されるよう、ロジャーズの三原則を忘れずにかかわっていく必要があります。
ケースフォーミュレーションとは、心理アセスメントで得た情報をまとめて、今後のカウンセリングの方針・計画を立て行くことです。
クライエントの抱える悩みが、どのようなアプローチ(介入)方法であれば解決に近づくか、仮説を立てながら考えていきます。
ケースフォーミュレーションは1回きりではなく、継続カウンセリングがはじまってからも定期的に行いましょう。ケースフォーミュレーションは、認知行動療法では特に必須事項のため、学びたい人は「ケースフォーミュレーション 認知行動療法」と検索して勉強してみてくださいね。
いよいよ継続的なカウンセリングを行います。
初回やアセスメント面接でアセスメントしたことをもとに、ケースフォーミュレーションで決めた方針を実施していきます。クライエントによっては、解決までにどのくらいの期間かかるのか気になる方もいるでしょう。
カウンセラーが行う手法によって、おおよその期間をお伝えすることもありますが、簡単に「〇か月で解決します」とは口にしません。
相談したい悩みをどのくらい抱えてきたか(期間)、相談したい話題がどのくらいあるか(悩みの量)、どのくらい困っているか(困難さ)などによって機関が異なるからです。年単位の人もいれば、数か月などで解決する人もいます。
今回は心理アセスメントについて、知っておいた方がいい知識を詰め込んで記事を作成しました。
もっとそれぞれを深めていくには、「書籍で学ぶ」「学校や通信講座で学ぶ」方法があります。
本屋さんやAmazonなどには、心理学に関する書籍が非常に多くあります。
アセスメントについて学ぶなら、次の本などがおすすめです。
・ 改訂版 特別支援教育に生きる心理アセスメントの基礎知識
・ 事例で学ぶ臨床心理アセスメント入門(臨床心理学増刊 第 4号)
・
スモールステップで学ぶ力動的な心理アセスメントワークブック: 出会いからフィードバックまで
そのほかにも、子どものための心理アセスメントの書籍や、心理検査、精神科臨床など、特定の場面で必要な心理アセスメント関連の本もあります。
学校や通信講座で学ぶ場合、カウンセラーとして必要最低限の心理アセスメントの知識を学べます。
それだけでなく、基礎心理学や応用心理学、心理療法や精神疾患のことなども詳しく学べるでしょう。
ただし、費用と時間がある程度かかるため、じっくり時間をかけて専門的に心理学を学びたい人は「大学・大学院」、効率よく専門知識を学びたい人は「通信講座」がおすすめとなります。
特に近年は、通信講座も専門知識を学べて資格を取得できるところが増えました。
■おすすめの通信講座はこちら
・SARAスクール
・諒設計アーキテクトラーニング
心理カウンセラーにとって、心理アセスメントはカウンセリングを行うために重要なものです。
相談に来るクライエントにとっても、心理アセスメントをきちんとしてもらえていることで、カウンセリングの時間をより良いものと感じられます。
心理アセスメントにはさまざまな手法があるため、何をどうすればいいか今はわからなくても大丈夫です。これから心理アセスメントを勉強して、カウンセラーとして活動していきましょう!
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