心理カウンセラーが活動する場はさまざまですが、学校や一般企業における役割を知っていますか?
学校や一般企業における心理カウンセラーの役割は、相談者に寄り添うという点ではほかの職場と同様ですが、学校や企業ならではの役割もあります。
そこで今回は、スクールカウンセラーや産業カウンセラーなど、学校や企業における心理カウンセラーの役割を具体的に解説します。
仕事内容以外に、心理カウンセラーになる方法や向いている人の特徴、学校や企業で勤めるならではの注意点を紹介しますので、カウンセラーに関心のある人は参考にしてくださいね。
同じ心理カウンセラーでも、働く場所によって求められる役割や仕事内容は異なります。
特に心理カウンセラーといえば、病院で働くイメージが強いですよね。しかし、近年は学校や企業でも需要が高まっています。
ここでは、学校と一般企業における心理カウンセラーの役割や仕事内容を解説します。
学校における心理カウンセラーとは、スクールカウンセラーのことです。
ここでは文部科学省が公表しているスクールカウンセラーの業務を7つ紹介します。
学校における心理カウンセラーにとって最も重要な業務は、児童生徒のカウンセリングです。
主に小学生~高校生を対象とするのがスクールカウンセラー。この時期の子どもの心は非常に複雑です。スクールカウンセラーは、大事な時を生きている子どものに寄り添い、必要に応じて助言などを行います。
カウンセリングは相談室内で行なわれることが多く、公立学校の場合は週1~3日勤務となっているようです。近年、常勤化も話題になっていますが、2024年現在は非常勤として1校もしくは複数校を兼務するカウンセラーが多いとされています。
保護者の面接(カウンセリング)は、担任の先生や窓口となる教育相談担当の教員からの依頼で行なわれることが多いです。
ただし、ニーズとしては保護者が希望することもあれば、「先生に勧められただけ」というやや消極的な気持ちや警戒心を持ちながら来室される保護者もいます。
どのような場合でも、スクールカウンセラーは保護者と教員を繋げる役割を担っているため、教員への報告は必須であり注意が必要です。
コンサルテーションとは、子どもとの関わり方などについて、教員に助言を行うこと。
カウンセリングと異なるため、心理学的視点以外に教員の立場や学校教育に関する理解も必要といわれています。
学校によっては、児童生徒のカウンセリングよりもニーズがある場合もあるでしょう。
教員のカウンセリングも重要な役割の1つです。
「令和4年度公立学校教職員の人事行政状況調査」によると、教員が精神疾患によって休職した人数は6539人ということが明らかとなりました。令和3年度から642人も増加し、過去最多の数値を出しています。
最も多いのが適応障害といわれ、全体の7〜8割とされています。適応障害とは、症状が長期化することによってうつ病や不安障害など、その他の精神疾患になりやすい病気です。
早期対策・早期発見・早期療養が重要となるため、スクールカウンセラーには適応障害など精神疾患の症状への知識が求められます。
スクールカウンセラーは、「不登校に関する理解や対応」「児童虐待に関する理解と対応」などに関する講演会や研修を求められることがあります。
対象は生徒や教師、地域などさまざまですが、教員はカウンセラーよりも人前で話すプロという意識を忘れずに実施しましょう。
また、心理の専門家以外の人に研修を行う場合、なるべく専門用語は減らして、わかりやすく話す技術も求められます。
スクールカウンセラーには、実際に心の悩みが起きる前段階で予防することも求められています。
たとえば、ストレスチェックを用いて、児童生徒のストレス度合いを把握する方法があります。ほかにも授業や特別に時間を設けてもらい、ストレス対処に関する講座を開くこともあるでしょう。
アセスメントや心理検査も学校における心理カウンセラーの役割です。
アセスメントとは、対話や観察から児童生徒や保護者、教員の心理状況を把握する方法のこと。スクールカウンセラーは医療行為ができないため、安易に診断名は言わないように気をつけてください。
心理検査は学校によって、医療機関や教育センターなどに依頼するケースもあります。もし学校で実施する場合は、「質問紙法(YG性格検査、エゴグラム)」「投影法(ロールシャッハテスト)」「描画法(バウムテスト、HTP/HTPP、風景構成法)」などを行うことはあるようです。
知能検査や発達検査に関しては、結果の見方や活用方法は理解しておきましょう。
次に一般企業における心理カウンセラーの役割を5つ紹介します。
一般企業では「産業カウンセラー」や「キャリアコンサルタント」の資格を持つ人が多く活躍しているといわれています。臨床心理士や公認心理師などの採用枠がないわけではなく、産業領域に関心のある心理カウンセラーが「産業カウンセラー」や「キャリアコンサルタント」を保有している人が多いと考えるといいかもしれません。
また、企業内と企業外(外部の民間カウンセリング事業の会社)では行うことが異なりますが、今回は主に企業内の心理カウンセラーの役割を紹介しています。
厚生労働省は、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」として次の4つのメンタルヘルスケアを推進しています。
1.セルフケア
2.ラインによるケア
3.事業場内産業保健スタッフ等によるケア
4.事業場外資源によるケア
このうち、一般企業内における心理カウンセラーの主な業務内容は「3.事業場内産業保健スタッフ等によるケア」に該当します。
事業場内産業保健スタッフは、産業医や保健師・看護師、心理カウンセラー、人事労務担当などが該当。労働者や管理監督者(管理職)に対する支援を行い、メンタルヘルスケアの企画立案や事業場外の資源との窓口の役割などを果たします。
平たくいうと、企業内で働いている人のカウンセリングやサポートを行う仕事です。
精神疾患等になる前に、予防や早期発見を目指すのも心理カウンセラーの仕事です。
ストレスチェックの実施や定期的な面談の機会など、企業によって方法はさまざまですが、予防と早期発見はこのあと紹介する「職場の環境改善」「生産性とパフォーマンス向上」にもつながる大事な役割となります。
一般企業における心理カウンセラーの役割は、1on1の面接だけではありません。
ストレスを軽減する、もしくはストレスになりにくい職場環境の調整も役割の1つです。
たとえば、職場のレイアウト(デスクなどの配置)や労働時間、業務のやり方などを改善することで、労働者を嫌なストレスから守り、不調を予防します。
労働者個人の能力を最大限に発揮させ、会社全体の生産性向上を目指すのも心理カウンセラーの仕事。
EAP(従業員支援プログラム)といって、メンタルヘルスの課題を抱える従業員を支援する政策が企業から求められています。
このプログラムは「役割①事業場内ケア」で解説した4つのケアのうち「4.事業場外資源によるケア」に当たることが多いです。しかし、このプログラムを進めていくには、企業内のことを知っている人の存在も重要。そこで、企業内の心理カウンセラーが窓口となり、連携させて進めていきます。
休職者の支援や、従業員のキャリア設計の支援を行うことも心理カウンセラーの役割です。
近年、日本は働き方改革やコロナの影響により、働き方の多様化が進んでいますよね。終身雇用が当たり前でしたが、1つの会社にこだわらないキャリアを選択する人も今後はさらに増えていくでしょう。
しかし、どのような選択肢がいいのかわからない人も多いのが現状。そこで企業内の心理カウンセラーは、メンタルヘルスケアだけではなく個人のキャリアに関する相談にも対応していく必要があるのです。
学校や一般企業における心理カウンセラーの役割を紹介しました。
では、それぞれの心理カウンセラーになるにはどうすればいいのでしょうか?学校と一般企業の心理カウンセラーになる方法を紹介します。
学校のカウンセラーといえば、スクールカウンセラーです。
スクールカウンセラーになる条件は、以下の通りとなります。
・公認心理師
・公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会の認定に係る臨床心理士
・精神科医
・児童生徒の心理に関して高度に専門的な知識及び経験を有し、学校教育法第1条に規定する大学の学長、副学長、学部長、教授、准教授、講師(常時勤務をする者に限る)又は助教の職にある者又はあった者
・都道府県又は指定都市が上記の各者と同等以上の知識及び経験を有すると認めた者
引用元:文部科学省「スクールカウンセラー等活用事業実施要領」
なかでも、公認心理師と臨床心理士の採用が多いといわれています。
スクールカウンセラーになるには、国家資格である公認心理師や、民間資格でも難易度の高い臨床心理士の資格を取得する必要があるでしょう。どちらも大学院進学が基本となっています。
一般企業のカウンセラーになるには、次のような資格を持っておくと有利です。
・産業カウンセラー
・キャリアコンサルタント
・キャリアカウンセラー
・臨床心理士
・公認心理師
・精神保健福祉士
資格の有無は企業によって異なり、特に義務付けていないところもあります。
また、上記の資格は時間や費用がかかるため、自己PRや知識として資格を取得したい人は次の資格もおすすめです。
・ メンタル士心理カウンセラー®資格
・ アンガーカウンセラー®資格
・ 行動心理カウンセラー®資格
次に、学校における心理カウンセラーの現状や、勤める前に知っておきたい相談内容、身に着けたいスキルなどを解説します。
文部科学省は、全国各地の学校へスクールカウンセラーの配置・派遣を目指していますが、まだ導入されていない学校もあるのが現状です。
年々増加している傾向ですが、まだ人材不足を感じている都道府県は多いとされています。
また、このあと紹介するスクールカウンセラーの資質の向上も各教育委員会から問題点としてあがっているようです。スクールカウンセラーの経歴などによって、対応できる相談内容に偏りがあるなど、スクールカウンセラーの資質向上のための施策も今後さらに必要となっていくでしょう。
文部科学省「スクールカウンセラー等活用事業に関するQ&A(2023年4月公表)」によれば、相談内容の件数は次の順で多いとされています。
1位 不登校
2位 その他
3位 心身の健康・保健
4位 発達障害等
5位 家庭環境
2位のその他は、相談内容の区別が不明なものを含んでいます。また、これらの相談内容は、児童生徒に限らず保護者や教員のものも含まれています。
近年はSNSの普及によって、見えないいじめや友人関係の悩みもあるでしょう。さらに令和3年度の調査からは「ヤングケアラー(本来大人が担う家事や家族の世話を担う子ども)」に関する相談も調査項目に加わりました。
スクールカウンセラーに求められるスキルや知識は以下の通りです。
・生徒指導上の問題に関する視点
・児童生徒の心理状況の把握
・教員のメンタルヘルスの把握
・予防や早期発見のための精神疾患の知識
・以下の事柄に関する専門知識と対応力
不登校や児童虐待、災害や事故、PTSD
適応指導教室など、校外の制度
発達段階の理解と課題解決のための方法
各教育委員会では、スーパーバイザー(同じくスクールカウンセラーとして活躍する先輩など)を活用した研修会の実施や、各自治体の教育方針などを理解するための研修などが行われています。
一般企業における心理カウンセラーには、どのような課題があり、どのような相談内容が多いのでしょうか。現状と共に、詳しく解説します。
現在の日本の法律に、企業のカウンセリング窓口(相談室)の設置義務はありません。
すべての企業が導入しているわけではなく、求人を探すのもスクールカウンセラーより大変な可能性もあるでしょう。
厚生労働省による「こころの耳」という働く人のメンタルヘルスポータルサイトには、企業内のメンタルヘルスに関する事例が記載されていました。
・北海道や群馬県、愛知県の事例では、臨床心理士や産業カウンセラーが相談対応
・東京都の事例では保健師や看護師が相談対応
これらはごく一部の例ですが、臨床心理士や産業カウンセラー、看護師・保健師の免許があると活躍の場は広がりそうですね。
一般企業における相談内容は、病院など医療機関で行なわれるカウンセリングとは異なるところがあります。
たとえば、企業内の相談内容としては次のものが挙げられます。
・体調面
・労働環境
・ハラスメント
・休職や転職
・生活習慣
特に健康相談室としての役割を持つ場合や、産業医もいる相談室では健康面に関する内容が多いといわれています。
従業員の話す内容から、体調だけでなく心の悩みがあるか見極めるのも心理カウンセラーの役割です。
心理カウンセラーは、思いやりを持つだけでなく、冷静な判断力や対応力が必要となります。
医療機関や福祉施設などでは、基本的に相談室へ訪れた人へ対応するのが心理カウンセラーの役割です。
しかし、企業の場合は快適な職場づくりへの積極性も必要となります。精神状態の悪化から、健康的な状態を取り戻すだけでなく、キャリアやコミュニケーションスキルの開発など、労働の知識も重要なのです。
心の問題に限らず、さまざまな悩みを抱えている人をサポートする心理カウンセラー。
心理カウンセラーに向いている人の特徴は次の通りです。
・人に興味関心がある
・コミュニケション能力が高い
・根気強く話を聴ける
・冷静な判断力や対応力がある
・論理的思考や客観的視点で物事を見れる
・向学心がある
・自己コントロール力がある
では、上記の特徴に加えて、スクールカウンセラーや一般企業における心理カウンセラーに向いている人はどのような人なのでしょうか?
スクールカウンセラーに向いている人は以下の通りです。
・子どもと関わることが好き、寄り添える
・スケジュール管理が得意
・子どもの発達だけでなく、幅広い知識がある
・守秘義務や報告義務を理解し、子どもとの約束も守れる
教育臨床には「集団守秘義務」が存在します。集団守秘義務とは、生徒の悩みを教員との間で共有するなど、学校全体で子ども悩みの解決をするというものです。
しかし、忘れてはいけないのは相談者は「児童生徒」であること。
児童生徒の許可なしに、相談内容を第三者に話さないと約束したうえでカウンセリングは実施されます。
報告義務と守秘義務の違いを理解し、子どもが安心して相談室で話せるように心がける力も心理カウンセラーには必要です。
企業内の心理カウンセラーに向いている人は以下の通りです。
・社会や企業に関心を持てる人
・語彙力がある人
・労働環境や産業領域に関する知識がある人
・守秘義務と報告義務、労働者の人権を守れる人
スクールカウンセラー同様、企業内のカウンセラーにも「守秘義務」と「報告義務」があります。
また、企業内のカウンセラーの場合は、産業医や保健師など共に相談支援にあたっているメンバーと連携することもあるでしょう。また、相談者の部署長や人事などに「相談を行った報告」をすることを求められる場合があります。
相談内容は労働者の許可なしに話さないこと、カウンセリングが行われたことなどは、報告の必要があることを理解する必要があります。
最後に、学校や一般企業における心理カウンセラーになる際の注意点を紹介します。
医療機関に勤めたことがなくても、最低限の精神疾患の症状や診断基準の知識は必要です。
理由は、未然に防げる可能性があることと、早期発見・早期治療につなげることができるから。特に企業や学校で相談をする人たちは、自分の症状の表面的な部分には気づいていても、心の問題には気づけていないことがあります。
最低限の知識を持つことで、話の聴き方や質問の仕方が変わり、より相談者のためになるカウンセリングができるでしょう。
ただし、心理カウンセラーは医者ではないので「あなたはうつ病だから病院へ行きましょう」など、安易に診断名を出さないように注意してください。
厚生労働省と警察庁の調査によれば、令和5年の自殺者数は以下の通りです。
・小中学生
総数 513名
男子 259名
女子 254名
特に男子高校生の自殺者数が最も高い結果でした。
・有職者
総数 8,858名
男性 7,063名
女性 1,795名
圧倒的に男性の方が高い結果となっています。
また、虐待とは未成年の子どもだけでなく、成人後も悩み続けている人もいます。
職場環境は全く問題ないにも関わらず、メンタルヘルス上の課題がありそうな人は、家族関係やパートナーシップなども慎重に聴いてみましょう。
企業には大人、学校には大人と子どもがいます。
どちらもハラスメントの発生は起こる可能性があるため、ある程度の知識は持っておきましょう。
特にみられるハラスメントは「パワハラ」「セクハラ」「マタハラ」「カスハラ」です。ほかにも表面化しにくいハラスメントとして、不機嫌ハラスメントなどがあります。
学校や一般企業における心理カウンセラーの役割について、具体的に解説しました。
スクールカウンセラーは、一般的には臨床心理士や公認心理師を保有する人がなりやすいですが、英会話学校やフリースクールなど民間学校であれば、未経験や無資格でも目指せます。
一般企業の心理カウンセラーも、無資格者や未経験の人を雇っているところもあります。
業務内容は多いですが、とてもやりがいのある仕事です。国家資格ではなくても、民間資格「メンタル士心理カウンセラー®」などを取得して、自己PRにつなげましょう。
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