スクールカウンセラーは、子どもにとって最も身近な心の専門家です。
では、スクールカウンセラーになるにはどのような方法があるのでしょうか?今回は文部科学省や厚生労働省の公表しているデータをもとに、スクールカウンセラーになる方法や仕事内容、勤務先、必要資格などについて詳しく解説します。
スクールカウンセラーは、心理の専門家の中でも校内に所属して、子どもたちや関係者の課題解決のために尽力する人のことです。
子どものカウンセラーというイメージがありますが、実際には保護者や教職員のサポートも仕事の1つ。スクールカウンセラーは小学校や中学校、高等学校、特別支援学校などにそれぞれ配置されています。
スクールカウンセラーは常勤としての配置が非常に少なく、現在も常勤化に向けて文部科学省を中心に動いている最中です。
子どもの発達や関係者のためにも必要な存在であるスクールカウンセラーについて、今回は仕事内容や役立つ資格を中心に解説します。
スクールカウンセラーになるには、毎年各都道府県の教育委員会が行なうスクールカウンセラーの募集時期に応募し、採用される必要があります。
同じカウンセラーでも、病院や福祉施設とはなるための方法が異なりますので、まずはスクールカウンセラーになるための方法を解説します。
文部科学省公表の、スクールカウンセラー選考基準は以下の通りです。
以下のいずれかに該当する者から、実績を踏まえ、都道府県または指定都市が先行し、スクールカウンセラーとして認められた者。
・公認心理師
・公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会の認定に係る臨床心理士
・精神科医
・児童生徒の心理に関して高度に専門的な知識及び経験を有し、学校教育法第1条に規定する大学の学長、副学長、学部長、教授、准教授、講師(常時勤務をする者に限る)又は助教の職にある者又はあった者
・都道府県又は指定都市が上記の各者と同等以上の知識及び経験を有すると認めた者
引用元:文部科学省「スクールカウンセラー等活用事業実施要領」
5つの条件のいずれかに該当する者となっていますが、臨床心理士資格を持つ人が採用されていることが多いようです。
募集要項を見るとわかるように、どの学部からでもスクールカウンセラーを目指せるわけではありません。
一般的には次の学部から目指せるといわれています。
・心理学部
・人文学部
・社会福祉学部
・医学部
・教育学部
公認心理師を目指すなら、公認心理師カリキュラムのある心理学部や人文学部への入学と卒業が必須です。
臨床心理士やそのほかの条件でスクールカウンセラーを目指す場合は、心理学部ではなくても可能となっています。
ただし、スクールカウンセラーの多くを占める臨床心理士を目指す場合は大学院進学(もしくは専門職大学院など)が必須です。最短で資格取得までに大学入学から6年かかります。
スクールカウンセラーは、通信制大学でも目指せます。
通学ではない大学に進学したい高校生や、仕事をしながらスクールカウンセラーを目指す社会人、学費をできるだけおさえたい人には通信制大学がおすすめです。
ただし、通信制大学は入学がしやすいことで有名ですが、卒業率は50%〜60%の学校が多いことが現状。卒業率だけで入学先を目指すと、思っていた学びができない場合もあるので気をつけましょう。
全国でスクールカウンセラーを目指せる通信制大学は以下の7校です。
・放送大学
・産業能率大学
・東京福祉大学
・武蔵野大学
・聖徳大学
・中部学院大学
・京都橘大学
このほかにも、東北福祉大学や大手前大学、東京未来大学などにも、心理系のコースが設置されています。
例年、どの都道府県教育委員会も9月から10月あたりから募集要項を公開しています。
令和5年の東京都の申込書提出期間は2週間程度だったようです。現在、募集ページは閉じられてしまっていますが、9月から10月は希望都道府県の教育委員会のページを小まめにチェックしておくといいでしょう。
スクールカウンセラーは子どものカウンセリングをする仕事だけではありません。
ここでは、スクールカウンセラーが行う業務について文部科学省公表の情報をもとに紹介します。
最も重要な業務は、相談室で実施する児童生徒のカウンセリングです。
子どもの心は複雑であり、大人と比べてしまうと自分の気持ちを言語化することもまだ難しいです。スクールカウンセラーは、そんな大事な時期を生きている子どもの声に耳を傾け、寄り添い、必要に応じて助言を行います。
スクールカウンセラーが行うカウンセリングは、学校によってスケジュールや形態が異なることがあるため、配置された学校の教職員と相談しながら実施していきます。
たとえば、窓口となる教育相談担当の教員や養護教諭が「この子のカウンセリングをお願いします」と依頼してくれて、日時が設定されることもあれば、子どもが自らスクールカウンセラーのもとを訪ねてくることもあるでしょう。
次に、保護者の面接(カウンセリング)もスクールカウンセラーの仕事です。
担任の先生や窓口となる教育相談担当の教職員から依頼があり、開始されることがほとんどといわれています。依頼がある場合でも、保護者が積極的に申し込んでくるケースもあれば、先生方に勧められた形で来室される保護者もいるようです。
保護者対応を行う場合は、面接内容を担任や教育相談担当の教職員に報告する必要があります。スクールカウンセラーは保護者と教職員の間に入って、双方を繋げる橋となる役割を担っているため、報告には細心の注意が必要です。
コンサルテーションとは、子どもとの関わり方や見方に関して、教職員にコメントやアドバイスを行うこと。カウンセリングと異なり、アドバイザー的役割の意味合いが強く、次のようなスキルや知識が求められます。
・生徒指導上の問題に関する視点
・児童生徒の心理状況の把握
・不登校や児童虐待、災害や事故、PTSDに関する知識
・適応指導教室など、校外の制度に関する知識
・発達段階の理解と課題解決のための知識
いずれも一般的な知識を持っているだけでは不十分であり、臨床心理学的観点からのアドバイスやコメントを求められています。
意外と知られていないのが、教職員のメンタルヘルスサポート(カウンセリング)です。
学校組織や児童・生徒が危機にさらされる可能性のある相談内容以外は、一般的なカウンセリング同様に守秘義務が厳守されます。
また、クラスや児童生徒に関する悩みを打ち明けて呉れた場合は「そのクラスや児童生徒の課題」なのか「教職員自身のなかで起きている課題」なのか、もしくは両方なのかを区別する必要があります。相談者である教職員が心的なストレスや身体症状を持っている場合もあるため、よく観察する必要もあるでしょう。
スクールカウンセラーは、研修や講演もできなければなりません。
たとえば、講演や研修では以下のような内容がテーマとして取り上げられやすいです。
・不登校や児童虐待に関する理解や対応
・思春期の子どもの心理、それらに対する対応と注意点
・子どもの発達段階の特徴
・カウンセリングマインド
特に教職員は、スクールカウンセラーよりも人前で話すプロという意識を忘れずに準備しましょう。
また、近年では教職員や保護者、地域に向けた研修や講演会以外に、児童生徒向けのものを依頼してくださる学校もあるようです。大人に話すとき以上に専門用語をさらに減らした「わかりやすい説明」の力が必要とされます。
スクールカウンセラーはカウンセリング対象となる子どもだけでなく、予防にも尽力します。
・予防的対応1
ストレスチェックを用いて、現在の児童生徒のストレス度合いを把握します。多くのストレスを抱えている子に対しては、予防的にカウンセリングを実施することもあります。また、教職員にGHQ(精神健康調査票)を実施する場合もあります。
・予防対応2
授業や特別活動を通して、一般的なストレス対処について話をする機会などもあります。特に集団へのリラクセーションは、危機対応時には必須の技法です。
カンファレンスやアセスメント、スクリーニング、心理検査もスクールカウンセラーの業務です。
<カンファレンス>
とある事例に関して、関係者で現状報告や情報共有を行ない、今後の対処法について各専門家と協力し合い考えていきます。
<アセスメント(見立て)>
心理検査を用いる以外に、対話や観察から子どもや保護者、教職員の心理状況を理解する必要があります。
医師ではないスクールカウンセラーが安易に診断名を口にすることは行ってはいけない行為となるので気をつけましょう。
<スクリーニング(調査)>
ストレスチェックや意識調査などのことです。児童生徒が心地よく学校生活を送るために実施する場合もあれば、研究のために実施することもあります。
心理検査は医療機関ほど頻度は多くないですが、必要最低限の心理検査はできるようになっておきましょう。特に学校で用いられる検査には、次のものがあります。
・質問紙法(YG性格検査、エゴグラム)
・投影法(ロールシャッハテスト)
・描画法(バウムテスト、HTP/HTPP、風景構成法)
知能検査や発達検査を校内で行うことはほとんどありません。
ただし、医療機関や教育センターなどで実施した検査結果を持ってきてくれる機会は多くあるので、検査結果の見方は理解しておきましょう。
スクールカウンセラーは名称の通り、「学校」に勤務する方がほとんどです。都道府県によっては、関連機関の勤務がある場合もあります。
各都道府県の教育委員会が募集する「学校」は、基本的に以下の公立学校となります。
・小学校
・中学校
・高等学校
・特別支援学校
多くの場合、週1〜3日勤務となっているようです。同じ学校に週3勤務する人もいれば、次のような働き方をしているスクールカウンセラーもいます。
・スクールカウンセラーAさんの働き方(週2日)
月曜:小学校
火曜:中学校
・スクールカウンセラーBさんの働き方(週3日)
月曜午前:第1中学校
月曜午後:第4中学校
水曜:小学校
木曜:第2中学校
地域によって、午前と午後で勤務する学校が異なる場合もあるようです。配置される学校は選べるわけではないので、応募する際は十分気をつけてください。
各都道府県の教育委員会から募集されるスクールカウンセラー以外に、私立の学校独自で募集しているケースもあります。
公立学校との違いは以下の通りです。
・勤務日数が週2~5日(多くは週3日以上)
・曜日が固定されている場合がある
・産休代替などで4月開始以外の募集もある
・基本は応募した学校のみでの勤務
・毎年募集しているわけではない
ほかにも細かな違いはありそうですが、勤務日数や募集時期などが異なっています。
私立のスクールカウンセラー配置はまだ多くはなく、都道府県で募集している公立のスクールカウンセラーと異なり、毎年入れ替わるわけでもありません。
都道府県によって、学校以外に勤務することもあります。
たとえば、埼玉県の募集要項には、学校以外に次のような勤務先が記載されていました。
・ 県内各教育事務所
・
県立総合教育センター
・きたうらわ相談室
教育センターと、きたうらわ相談室はオンライン相談も含まれているようです。
募集要項を見る限り、資格がある方が有利と考えられます。
ここでは、必要な資格やそのほかの条件について詳しく解説します。
都道府県教育委員会が募集するスクールカウンセラーとして採用されるためには、基本的には資格が必要です。
しかし、このあと紹介する「高度な専門知識と経験がある者」「児童生徒対象の相談業務がある者」や「準ずる者」に該当している場合、応募資格はあります。
文部科学省公表のデータによれば、スクールカウンセラーの8割以上が臨床心理士です。
臨床心理士は公認心理師を取得している人も多いため、公認心理師も同じくらいいると考えられます。
<臨床心理士>
日本臨床心理士資格認定協会が認定している資格です。公認心理師誕生までは、臨床心理士が「心の専門家の証明となる資格」でした。
臨床心理士は5年ごとの更新制で、5年以内に一定のポイントを研修や勉強会などに参加して獲得する必要があります。
<公認心理師>
日本初の心理職の国家資格です。公認心理師については関連記事を参照ください。
参考
2 スクールカウンセラーについて:文部科学省
厚生労働省令和2年度障害者総合福祉推進事業「公認心理師の活動状況等に関する調査」
あまり多くはないようですが、精神科医もスクールカウンセラーになれます。
臨床心理士と異なり、診断を行うことができるのが特徴です。ただし、医療現場ではないため本人の了解なく診断名の公表は行えません。
また、精神科医になるには医師免許を持っている以外に、臨床現場の研修医として2年経験を積む必要があります。最短8年かかるので、スクールカウンセラーになるために精神科医になるという選択肢は少々遠回りかもしれません。
文部科学省によると、公認心理師や臨床心理士、精神科医以外に次の条件に該当する人もスクールカウンセラーに応募できるとされています。
・児童生徒の心理に関して高度に専門的な知識及び経験を有し、学校教育法第1条に規定する大学の学長、副学長、学部長、教授、准教授、講師(常時勤務をする者に限る)又は助教の職にある者又はあった者
・都道府県又は指定都市が上記の各者と同等以上の知識及び経験を有すると認めた者
引用元:スクールカウンセラー等の選考|文部科学省
同等以上の知識や経験とはどのようなものかが明確にはなっていませんが、証明できる論文や研究、実績などがあるとアピールしやすいでしょう。
スクールカウンセラーの任用よりも、合理的だと認められた場合のみ「スクールカウンセラーに準ずる者」が採用されます。
スクールカウンセラーに準ずる者とは
・大学院修士課程を修了した者で、心理業務又は児童生徒を対象とした相談業務について、1年以上の経験を有する者
・大学若しくは短期大学を卒業した者で、心理業務又は児童生徒を対象とした相談業務について、5年以上の経験を有する者
・医師で、心理業務又は児童生徒を対象とした相談業務について、1年以上の経験を有する者
・都道府県又は指定都市が上記の各者と同等以上の知識及び経験を有すると認めた者
引用元:スクールカウンセラー等の選考|文部科学省
子どもに寄り添う専門家であるスクールカウンセラーは、年々配置に向けて動いている学校が増えている状況です。
今後は常勤化も視野に動く学校が増加すると考えると、非常勤掛け持ちよりも常勤心理士として活躍したい人にとって、とても期待できる状況となっていくでしょう。
非常勤の多いスクールカウンセラーの年収は、厚生労働省賃金統計調査によれば約250〜300万円と考えられます。
掛け持ち先の給料によってはさらに年収アップも期待できるでしょう。また、私立のスクールカウンセラーの平均年収は350万円といわれていますが、学校にもよるのが現状です。
スクールカウンセラーになるには、最短6年かかる臨床心理士や公認心理師、最短8年かかる精神科医のいずれかの取得が必要となります。
6〜8年は長く感じる人も多いですよね。そこでスクールカウンセラーと近い役割を持ち、学校で働くほかの職種も紹介します。
スクールソーシャルワーカーとは、教育と福祉の両方の知識と経験を持って、児童生徒の課題に対応していく人です。学校内に限らず、児童生徒が置かれた環境への働きかけや、関係機関との連携も行います。
応募資格は、社会福祉士又は精神保健福祉士のいずれかの資格を持っている人です。
社会福祉士や精神保健福祉士は、大学または専門学校で養成課程を修了するもしくは、実務経験など一定条件をクリアした人が国家試験を受けて合格すれば得られる資格。現在の皆さんの状況にもよりますが、高校生が卒業後に目指すなら最短4年で取得できます。
参考
スクールソーシャルワーカー活用事業:文部科学省
[社会福祉士国家試験]受験資格(資格取得ルート図):福祉系大学等:公益財団法人
社会福祉振興・試験センター
[精神保健福祉士国家試験]受験資格(資格取得ルート図):福祉系大学等:公益財団法人
社会福祉振興・試験センター
養護教諭とは、保健室の先生のことです。
保健室の先生になるには養護教諭免許状が必須。免許状取得を目指せる教育学部や看護学部などの進学が必要となります。
保健室の先生は各自治体の教員採用試験に合格して就職する人が多いですが、免許状があれば臨時職員や非常勤として勤務することも可能です。
養護教諭:文部科学省
さわやか相談員とは、埼玉県の一部の市や仙台市で募集されている相談員のことです。
基本的に資格は必要ないですが、実務経験者や学校教育に理解のある人が求められています。仕事内容はスクールカウンセラーと似たようなことが記載されている自治体が多いため、誰でも目指せるわけではないでしょう。
スクールカウンセラーと異なり、週5日勤務が必須で、月給は13〜20万円と自治体によって差があるようです。
ここまでスクールカウンセラーや関連した仕事について解説しました。
どの業務もある程度の知識や経験が必要となっているため、資格取得や応募条件を満たすまでに時間や費用がかかると考えられます。学校以外で子どもと関わる仕事をしたいと考えている人は、以下の資格の取得も検討してみてくださいね。
胎児期から思春期までの子どもの心理や発達を理解し、カウンセリングをおこなうスキルを持つことを証明する資格です。
資格取得後は、保育現場や教育関連施設などで活躍できます。また、子どもが通う習い事や学習塾などでも活かせるでしょう。
チャイルド心理カウンセラー資格
子どもの発達段階や性格形成に関する知識を有している人が認定される資格です。
資格取得後は、カルチャースクール講師や親子教室などで活躍できます。また、音楽や絵画教室など、子どもと関わる仕事についている人にも人気の資格です。
子供心理カウンセラー®
スクールカウンセラーは、子どもの大事な時期に関わる重要な仕事です。
スクールカウンセラーになるためには、臨床心理士や公認心理師、精神科医の資格を取得していると有利ですが、知識や経験が認められれば無資格でも応募できる可能性はあります。
しかし、ライバルは有資格者となりますので、スクールカウンセラー以外の道を目指すのも選択肢の1つです。
子どもと関わる仕事は数多くあるので、スクールカウンセラーも含め、自分が目指したい方向性をぜひ検討してみてください。
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